つかもとブログ

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69

 「69」という数字がある。きっとこの数字の読み方は、ある程度の年齢から変わってくるだろう。

 

 わたしがこの数字に隠された意味を知ったのは、小学校高学年の時だった。当時は、モーニング娘。が爆発的に流行っていて、クラス中の誰もがそれぞれ好きなメンバー、今で言う“推し”を持っていた。わたしは保田圭ちゃん推しだったので、一度、「保田圭ちゃんは、つんくと親戚で、だからコネでモーニング娘。に入れたんだよ」と友人に言われた時には、自分のことでもないのに、プンスカしてしまった。根も葉もない噂が小学生の間でも飛び交うほど、モーニング娘。は凄まじかった。

 そんなある日、クラスメイトのまどかちゃんが、学校の休み時間に、わたしに近づいてきて、こう言った。「なっちとつんくはつきあってて、ろくじゅうきゅうみたいなこともしてるんだって」。「ろくじゅうきゅうって何?」「なんかね、こういうこと」。まどかちゃんは、わたしの机に指で69という数字を書きながら、「コッチが頭で、コッチが足」と説明してくれた。その瞬間、いつもの何でもない日常は、衝撃的な休み時間に変わった。「え、そんなことして、何になるの?」「知らない」。なぜ、まどかちゃんは、そんなことをわたしに教えてくれたのか。そもそも、なぜそんなことをまどかちゃんは知っているのか。わたしの頭は軽くパニックを起こしていた。

 その日は早く家に帰って、机の奥の引き出しから、秘密の自由帳を取り出した。この秘密の自由帳は、わたしの妄想と疑問がパンパンに詰まったノートで、小学生の頃、ずっと大事にしていた。(中学生になってそのノートを取り出してみたら、2ページ目に「人前でお漏らししたらどうなる?」というテーマで、絵が描かれていたのだが、まずそのテーマ設定も気が狂っているし、さらに、漏らしている女の子の顔が引くほど笑顔だったので、自分で自分が怖くなり、すぐに捨ててしまった)

 自由帳を開いて、つんくとなっちを描いた。つんくが「6」で、なっちが「9」だ。そのあと、じーっとその絵を見つめてみた。時折、目をつぶって想像を膨らませたりもしてみた。だが、良さがまったく分からなかった。なんとなく、親には聞いてはいけないことだろうなと思いつつ、大人は訳が分からないなと嘆いてみた。

 

 翌朝、服を着替えようとタンスを開けた。その時、見覚えのある数字が、でーんと目に入ってきた。わたしのお気に入りの、深緑色に、ところどころチェック模様の入ったトレーナーに、でかでかと「69」というプリントがしてあったのだ。わたしは、週に2回は、そのトレーナーを着て学校に行っていた。まどかちゃんは、「そのトレーナーはやばいよ」ということを伝えるために、つんくとなっちを引っ張り出して、「69」の意味を教えてくれたのだ。もしかしたら、近所のジャスコかどこかで、父母父兄たちが、「69」を着ているわたしを見かけたから、まどかちゃんを通じて教えてくれたのかもしれない。

 

 まどかちゃんがいなかったら、わたしはきっと高校生くらいまで、その「69」のトレーナーを着続けていただろう(なんせお気に入りだったから)。まどかちゃんのおかげで、わたしは1つ大人の階段を上り、同時に、なぜウチの親は、わたしに「69」のトレーナーを買い与えたのか、その謎だけがいまだ解決せぬまま残っているのである。