つかもとブログ

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ピース又吉氏についてのエッセイのようなもの

 

 

 

 

 

 一度だけお互いを認識したことがある。

 

 2008年の夏。渋谷センター街。私はコンビニの前でメールを確認していた。

 

すると彼は現れた。近くにあった劇場の出番があったのだろう。

 

「あ、又吉。」

 

と思った瞬間に目が合った。

 

 怖い、と感じた。彼が、当時出ていた劇場で、「暗い」やら「死神」やらと、周囲の芸人からいじられていることは知っていた。

 

 しかし、普段の彼は、舞台上よりもさらに強烈だった。

 

 あんなにいろんな人種がいる渋谷にすら溶け込んでいない。明るい色や声が飛び交う街で、彼の周りだけが黒かった。たまに「人間の色が見える」なんて、にわかに信じがたい、インチキ占い師みたいなのがテレビに出ていたりするが、私も彼の色だけははっきりと見えた。

 

 「この人死ぬんじゃないか」

 

 一気に彼の現状が心配になった。しかし、彼が纏う黒いオーラが、私の心が近づくことを拒んだ。

 

 

 

 それから一、二年してピースは急激に売れた。毎日テレビで見るようになった。テレビの向こう側にいる彼は、ちょっと楽しそうだったので安心した。

 

 そういえば、私は彼を十年以上前から知っている。ピースの前のコンビである「線香花火」時代だ。

 

 その頃の又吉直樹は、「又吉」よりも「直樹」が似合っている青年だった。「いいお兄ちゃん」といった雰囲気があった。

 

 当時私は、今はなき「よしもとファンダンゴ」に加入しているほどの、お笑い大好き女子中学生で、次長課長、ライセンス、線香花火の3組が渋谷屋根裏でやっていたトークライブ「.333」を見に行くことが夢だった。しかし、線香花火はすぐに解散する。

 

 それ以来、又吉直樹の動向は知らなかった。私は高校生になり、よしもとファンダンゴも解約した。お笑いより、テスト勉強や部活や、はじめての彼氏を作ることに躍起になっていた。だから、何年かぶりに見た彼の、まるで亡霊かのような姿に驚愕したのだ。

 

 

 

 今の彼は、テレビでも雑誌でも舞台でも、自分を発揮できる場所を与えられて、とても楽しそうだ。

 

 

 それでも、たまにちらりと見せる、彼の、彼にしか纏えないオーラが、居心地の悪さを醸し出していて、私のような人間は安堵するのである。