ショートケーキ
子どもの頃、ケーキが好きだった。
ごくごく平均的な年収の家庭に育ったわたしは、月に2回くらいケーキを食べる機会があった。
家族の誕生日はもちろん、父親がたまに買ってきてくれたりした。
わたしはショートケーキを好んで食べていた。
チョコレートケーキも、フルーツがたくさんのったケーキも、モンブランも好きだったけれど、ショートケーキはシンプルで、生クリームのねちっこい甘さと、イチゴの新鮮な甘酸っぱさがまっすぐ伝わってくる感じが良かった。
大人になって、ケーキは与えられるものではなく、自分で求めるものになった。
仕事で疲れた夜は少し値段のはる有名店のそれを買いに行った。
最初は自分で食べていた。
そのうち、こんなに美味しいものならば、誰かに食べさせたいと思うようになった。
わたしはある日、ショートケーキではなく男の子を買った。1時間で1万円だった。渋谷にあるお菓子の国のようなホテルで待ち合わせた。
部屋に入ると、男の子はTシャツを脱いだ。
わたしはそのTシャツを受け取り、彼の両目をそのTシャツで塞いだ。
男の子はすこし驚いたようだったが、そのままズボンのベルトに手をかけた。
ああ、やっぱりそうなのか、とわたしは少し落胆した。
非現実感漂う空間、ベッド、シャワー、コンドーム。それらは男女間に存在する特別なもので、高確率でセックスに繋がってしまうんだ。
だけど、わたしはセックスがしたいわけではなかった。
ただ、彼に、この両手一杯に抱えているショートケーキを食べさせたいだけだった。
だからわたしは、視界を奪われ、自分の下半身を弄っている愛しくて可哀想な男の子の口に、思いっきりショートケーキを放り込んだ。