つかもとブログ

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ステラとマチルダ

ステラは可愛い。

その可愛さゆえに、ステラはいつも薄い膜を張られているようだった。

牛乳を電子レンジであっためるとできる膜。あれの正式名称はなんだったか。

とにかく、そんな膜がしなしなと、いつもステラを覆い囲っていた。

 

ステラは自分より可愛い子を見たことがなかった。

思春期を迎え、自分が周りから可愛いと言われていることを知った。

ステラはちやほやされていた。

気分が悪いと路肩にしゃがめば、誰かがすぐに寄ってきた。

悲しいと泣けば、誰かがすぐにハンカチを差し出してくれた。

楽しいと笑えば、みんなが集まってきて、おずおずと、でも嬉しそうにいろんな話をしてくれた。

 

反対に「ブサイク」と、いつも机を蹴飛ばされているような子がいることも、ステラは知っていた。

ブサイクは可哀想だ、わたしは可愛くて良かった。

ステラはそういう子を見向きもしなかった。

 

 

マチルダはブサイク。

マチルダは太い眉毛に、カッターで切ったような細い目、団子鼻、厚いわりに血色の悪い唇。

マチルダの周りには膜はなかった。しかし、それはマチルダにとって不幸だった。

常に剥き出しの自分で勝負をさせられていた。

着飾ることを、求めることを、他人の目で禁ぜられていた。

 

マチルダは自分を、謙虚に「中の下」だと思っていた。

思春期を迎え、自分がクラスのブサイク街道をぶっちぎりで走っていることを認識させられた。

マチルダは馬鹿にされていた。

誰も助けてくれない。

マチルダはそんなこと、とうに慣れていた。

不幸だということに慣れていた。

 

 

何年かすると、

ステラの膜は他人の好奇でからからに乾き、彼女の肌を傷つけた。

彼女は自分を守る方法を知らなかった。

自分で保湿のできないステラは、常に誰かを求めた。

誰かの白い液体で、自分を包む膜が満たされることを望んだ。

 

マチルダの体は他人の好奇で血だらけになった。

しかし、彼女は常にその血で自分の肌を潤した。

マチルダは昔と変わらず戦い続け、少しずつ自らの身を強固なものにした。

かさぶたが取れる頃には、わたしは幸せになっているだろうか。