父親
母親から電話があった。
「かなちゃん、パパがね・・・」
と、あまりに暗い口調で言うので、
病気か、事故か、失業か、とビクビクしたけれど、
結果、「血圧が高め」という話だった。
まぁ色々弊害は出ているようだけど、
ひとまずは何とかなるようなのでほっとした。
つかもと家はかなり過保護で、
高校生まで門限は夜6時、お小遣いはなし、漫画・ゲームは一切ダメ
という、なかなかお堅い家庭だったのだが、
父親の風貌が、
色黒、細身、グラサン
という、九州のチンピラみたいな感じだったので、
同級生たちは、怖がるか、ネタにするかのどっちかだった。
だけど、サーフィンもするし、スノボもするし、一緒にマラソン大会の練習もしてくれていたし(わたしは小学校のマラソン大会が異常に好きだった)、勉強しろって全然言わなかったし、東京行っていいよって送り出してくれたし、
わたしにとってはずっと「自慢の父親」街道を爆走している。
そういえば、夏休みの自由研究も全部やってたな。
「やって」って頼んだわけでもないのに、キャッキャッしながら、空き地に「高師小僧」(地元で採掘できる、謎の石っころみたいなやつ)拾いに行ったり、貯金箱作ったり、絵描いたり。
わたしはそのおかげで、夏休み明けは学校で表彰され放題だった。
そんな父親は、今、歯が8本も欠けているらしい。
その事実は「なんか口まわりがおかしい…」と思った母親が、「口開けんしゃい」と無理矢理こじ開けて発覚したらしく、
しかも父親は、欠けた歯を全て大事に保管していた。
その欠けた歯を見てみたいから、早めに実家に帰ろうと思う。