大阪
テレビの仕事をしているわたしは、毎年、年末年始が忙しくなっていた。
それは、佐藤先輩も同じで、2人とも仕事納めにて解放された12月29日の夜は死んだように眠っていた。
そして明くる日の朝5時。
わたしは佐藤先輩を10回以上のモーニングコールで無理矢理起こし、朝7時の新幹線に飛び乗った。
ずっと見に行きたかった場所があるので
先輩と行きたいんですが
いかがですか
なんでもいい
そういう言われ方は慣れている。
はっきり言わない方が悪い、と決めつけ、都合の良い解釈をした。
なかなか抜け出せない静岡、名古屋、たんぼ道を走り抜け、段々に積み上げられた塔や京都タワーを横目で確認していたら大阪。
先輩の切符もあわせて買い、行き先は堺。
前方後円墳は教科書を見ても、きまって上からの姿だ。
横からぐるりと見てみたいと思った。
そして、佐藤先輩がそれを一緒に楽しめる人だといいなと思った。
しかし、先輩は、一周する間ひとことも喋らなかった。
わたしは、先輩を怒らせたと後悔した。
考えてもみれば、早朝叩き起こされて、わけも分からぬまま新幹線移動。着いて大阪。何をするかと思いきや、古墳。
嫌だと思う人がいても不思議ではない(もしかしたら大半の人が怒るかも)
佐藤先輩とは、それきりあまり話さなくなった。
(会社の上司に、一緒に新幹線に乗り込むところを見られたのもあるが。)
それまでは「堺」と言われれば「雅人」だったのに、「堺」は不機嫌な佐藤先輩を思い出させる、やっかいな地名、かつ、言葉になってしまった。
それから2年。
佐藤先輩が今の仕事を辞めることになり、送別会を開いた。
先輩は「大阪に行く」と言っていた。
なんで大阪なんですか?
たかじんの番組やりたいから。
あと、
古墳がイカしてた。
先輩さようなら。
わたしはずっと先輩のこと好きでした。