タン塩食べながら36分間で書きあげたエロい話
私はくたばりたかった。
薄暗い照明、耳をつんざくような笑い声、隣で接吻を交わす、何度か見かけたことのある人。
大人の世界では意外とまかり通ってしまう、そういうものから私は逃げた。
いつもの駅はすでに閑散としていた。時計の針は1時を差していた。
何も持たずに走っていた。カバンもコートもすべて置いてきた。
綿生地の厚いパーカー(ラッパーが着ていそうなやつ)にジーパン、スニーカー。
女に見られていないだろう。良かった。
私はとにかく走った。
俗と好奇の目から逃げたくて。
逃げれば逃げるほど深みに嵌っていくこととは知らず、まだ見ぬ世界に飛び込んで、溺れて、きっとこのまま行ったら死ぬだろう。
そんな予感を頭の後ろで感じながら、足だけを前に進めた。
10分ほど走ったところで、急に視界にもやがかかった。
あっ。
その場に膝から崩れ落ちた。思っていたよりもアルコールは回っていたようだ。
立ち上がろうにも体が動かない。
もういいや、所詮拙者はここまでか…
ひとりお江戸ごっこをしながら、その場に倒れ込もうとした。
「おねえさんだいじょうぶ?」
「おぬしなにものじゃ」
「いや、だーつしにいこうとおもって、そとでたら、いるから」
20代半ばくらいの男が2人立っていた。
男は強引に私の腕をつかんだ。
「とりあえず座りなよ」
民家が並ぶ脇に申し訳ない程度に置かれているベンチに座らされ、1人の男は少し離れた自動販売機で水を買ってきてくれた。
私はそれを礼も言わずにつかみとり、一気に飲み干した。
「おねえさん、こんなところでなにしてるの」
「にげてきた」
「は?なにから?」
こいつらは、私を殺人犯か何かかとでも思っているのか、途端に目の色を変えた。
怖れと好奇が入り混じる、私が最も嫌う目だ。
「おとながいやになったから、にげた」
「はい、よくわかんない。もうちょっとくわしく」
「・・・どうとくしんがまかりとおらないことがよしとされるのが、いや。
それについていけないじぶんも、いや。だからにげた」
「・・・らんこうでもしてたの?」
急にこの男たちに興味がわいた。
この2人は信用できるかもしれない、と思った。
嫌悪感を消すには、さらに嫌なものを提示すること。
それをたった2〜3分の会話で成立させてしまった。
それはスキルかセンスか、と問われれば後者だ。
スキルが得た範囲以上の効果を表すことはそうそうないが、
センスはいとも簡単に正解をたたき出すことがあるのを私は知っている。(もちろん、超不正解に振り切れることもあるのだが)
「じゃあらんこうしよう」
“じゃあ”の意味合いはまったく分からなかったが、ついていくことにした。
ひとりで逃げるには限界がある。ならば、ちょうどいい。巻き込んでしまおう。
こうして私は、名前も歳も知らない、男の家に上がり込んだ。
みたいなAVがあったら見る。